hideonakane / Works

Japanese / English

うつくしいくにのはなしⅢ 理想郷ユートピア

糸くずに紛れて 紅に沈むひと日があるなら
夢は夢の場所へ帰るだろう
悲しみは悲しみの場所へ帰るだろう
−武田多恵子「合歓」より

 震災後2013年に偶然に出会った美しい風景。以来、幾度となくこの地を訪れ、変わりゆく土地に想いを寄せてきた。TOKYOとFUKUSHIMAの非対称性について考えている。震災と原発事故の当事者ではなく、しかし同時に福島から送られて来る電気を無自覚に消費し続けた当事者として、この土地を通して考え続けること。そして美術家として、その事実に自覚的であり続けること。「傷」や「痛み」について何度でも問い直すこと。他者の悲しみに寄り添うことの「不可能性」について考えること。
 福島で初めて行われる今回の展示は二つの会期に分けて構成され、前期には3本の映像作品と、新作のベランダで咲く小さな夏の花(オレガノ・ケントビューティー)のシリーズから10点に大熊町と双葉町で撮影された大型のプリント他を加えた16点を、後期には浜通りで撮影された「うつくしいくにのはなし」から2022〜23年撮影の最新作を含めた作品7点と小品2点を展示をする。

 *DMのテキストより。作品の構成・点数については後日修正した。

 

前期展示:写真・映像

□2022年7月11日 月曜日
  ようこそおおくまへいらっしゃいました
  コンクリートのモニュメントに、オレンジ色のノウゼンカズラの花。大野駅があるここ双葉郡大熊町は、つい先日の6月30日に特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されたばかりだ。福島第一原発からは約四キロ。駅の西側を降りるとすぐに解体作業員たちの姿がある。避難指示区域の地図を見て、隣駅の夜ノ森駅の場所を確認する。夜ノ森駅は富岡町にあり、距離にして7キロ。グーグルマップには1時間27分の道のりを提案される。
  大熊町には不思議と合歓(ねむ)の木が多い。6月から8月にかけて、糸のような赤紫色の花が咲き乱れる。街を抜け、しばらく歩くと穏やかで美しい風景が広がる。小川が流れ、林をくぐり抜けると鶯の声に包まれる。人が去り、家屋は朽ちても庭木は残る。今は紫陽花も見頃である。町内を巡回する役所の車とすれ違う。途中、携帯の電波が途切れることもない。たとえ道に迷ってもすぐに引き返せる。


ねむ

2022-07-11 09:49/大熊町大野
Photogragh

 

installation view

 

installation view

installation view

後期展示:写真

□2023年 3月29日 水曜日
 2020年3月、JR常磐線が全線で開通し、翌2021年2月に初めて夜ノ森駅を訪れた。小さなロータリーはまだ未舗装で砂利が敷かれ、車道と歩道とを赤いコーンで隔てていた。特定復興再生拠点区域とはなったが、通行可能な総計一キロほどの道路上を除けば、路地への入口は全て封鎖されていた。夜ノ森公園側にある桜並木の入口にもバリケードが築かれ、警備員が常駐していた。大きな荷物を背負った不審な旅行者は、町内を巡回する警備会社の車両に監視されていた…のだと思う。
  翌年2022年1月26日、夜ノ森地区全域で立ち入り規制が解除された。同7月に再訪した時には、路地を塞ぐ柵は全て取り払われていた。青々と繁る葉桜の街道に立ち、夜ノ森の春の訪れを想像し、それを一度は見てみたいと思ったのだ。
  16時04分夜ノ森駅着。去年までは壊れた家屋がそのままの姿で残っていたが、今は駅前の区画のほとんどが更地になった。冬枯れのセイタカアワダチソウが、この土地を見守っている。さくら通りから国道六号線に交差するまでの約1キロの区間は、まさに満開の桜のトンネルだ。夜ノ森公園に新しく整備された遊具と、そこに集う家族連れの姿があった。車もみな速度を落とし、桜色に染まる夕暮れの街道を楽しんでいる。一方で桜並木の先には「売地」の看板が立つ。
  夜ノ森駅に戻る。店に掲げられたまま朽ちてゆく「ゲームセンター理想郷」の黄色い看板。駅に一番近い商店に据えられた「桜並木」の看板。それを交互に見比べ、自分には知り得ない往時の町の賑わいに、少しだけ想いを寄せてみる。12年の年月とその重さについて。17時01分夜ノ森駅発。


夜ノ森桜

2023-03-30 13:30/富岡町夜ノ森
Photogragh

installation view

 

installation view

installation view

うつくしいくにのはなし / 2013

□2013年9月1日
 福島県双葉郡楢葉町前原・山田浜地区は、木戸川の河口南東方向に広がる集落だ。鮭が遡上する小さな河川と豊かな自然に育まれた土地と聞く。日曜日だが国道沿いの民家に人影は見られなかった。
  不通となっている常磐線の広野駅(広野町)から竜田駅(楢葉町)まで8.5キロの開通に備え、周辺地域の除染作業が進められている。放射能にまみれた土壌や草木などは大きな黒い袋に回収され、日々仮置き場に積み上げられる。奥に見える白い建物はこの地区の瓦礫の搬入施設で、津波に流された「人々の思い出の品」もここで保管されている。周辺の空間線量は福島市内とほぼ同じレベルにまで下がっている。


installation view

a tale of a beautiful country / 2013
Photogragh


page top⏫