2010

エステティック / ライフ-Aesthtic Life-

中根 秀夫/平田星司

展覧会へ

 

 

過去は現在を決定する。その衝撃をよく考えてみるべきなのだ。これは単に形式的なことでなく、個人的な経験からなのだ。私が年をとり、過去の出来事から遠く隔たったのに、過去それ自身が迫ってくる(ノスタルジアとかそんなものではなく!)。すでに歴史の中に葬られてしまったであろう私の若かった頃の出来事が、まるで今起ったかのようなのだ。時間と歴史はもうリニアな経験ではすまない... ギャラリー内には7人のアーティスト(まだ生きていようと既に死んでいようと)がいる。今、彼らの作品は調和している - そんな準備がこの単色の空間にはできている... ここには全て静寂が与えられている。たぶんそれはあなたが選んだ作品のそれぞれが、内省的だからである - つまり単なる物語的な意味以上のことを考えてくれるよう促しているのだ。

Amikam Toren『The pleasure of aesthetic life』展カタログより(訳:平田星司)

 

 

1990 年代中頃のイギリスはブレア政権誕生前の経済が低迷するさなか。一方、美術といえばDamien HirstやRachel Whiteread、Anya Gallaccioらに代表される若手アーティスト が、社会に対する批評性の強い作品を繰り広げる。そんな96年、ロンドンのShowroomギャラリーで『The pleasure of aesthetic life』という展覧会が開催されました。 前述のAnya Gallaccio他、 Douglas Gibb, Denise Hawrysio, Georges Perec, Daniel Spoerri, Gera Urkom & John Wilkinsという6組7名のアーティストの展覧会で、その企画をしたのが平田のブライトン大学時代の師でもある Amikam Toren氏(1945年エルサレム生まれ)です。

The pleasure of aesthetic life.このaestheticというのは日本語に訳すのが困難な言葉のひとつです。aesthetic という英語の語感と、例えば「美の」「美学の」などの日本語のそれとの間に、微妙な感覚的差異が生じてしまうから。その差異を踏まえ、私たち二人はこの翻訳不能なエステティックな日常に悦びを持つことこそが「美術」の本質であり、あるいは逆に、「その美術」こそが私たちの疲弊した日常を救済するほとんど唯一の手段であると信じているのです。

Toren氏の言葉のとおり過去は現在を決定します。私たちは帰国後 10 余年を経て、日本に於ける美術の現状に対し確固たる提案をするべき時が来ていると考えているのです。英国での生活を通して体感した「美術」あるいは「美」というものに関する本質的な何か/エステティックを作品にして取り交わしてみせること。

この展覧会を今なおイギリスの第一線で活躍されるToren氏に捧げるとともに、私たちの展示をご覧になる多くの方々が、エステティック / ライフを共有されることを願っております。

2010年3月

 

 

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